のびのび幸福になる労働相談室室長のnobisukeです。
以前報道にありましたが、JR東日本労働組合の組合員が大量に脱退する非常事態が発生したそうです。
今回はなぜそんなことが起きてしまったのか、そして労働条件を決定するうえで欠かすことができない「労働組合」のあるべき姿について考えてみようと思います。
目次
労働組合の根拠
憲法
第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
憲法第28条を根拠として労働者が団結する権利を確保するために労働組合法が制定されています。
労働組合法
第一条 この法律は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること、労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し、団結することを擁護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成することを目的とする。
2 刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十五条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。
(労働組合)
第二条 この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。但し、左の各号の一に該当するものは、この限りでない。
一 役員、雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接にて い触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者の参加を許すもの
二 団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。但し、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
三 共済事業その他福利事業のみを目的とするもの
四 主として政治運動又は社会運動を目的とするもの
労働者の権利を守るために団結し、使用者と交渉するのが労働組合です。
使用者側の人間がはいっておらず、使用者からの資金提供を受けず、福利事業や政治運動、社会運動を主な目的としていなければ、基本的には労働組合として認められるようです。
労働組合の役割
労働組合の役割として、労働条件、雇用、職場環境の改善など労働者の権利を守るために立場の弱い労働者が団結し、使用者側と対等な立場で交渉することがあげられます。
また、ボトムアップにより職員の意見の集約、現場の状況などについてをまとめることもできます。
使用者側にもメリットがある
使用者は円滑に業務を進めるために労働者代表と労使協定を結ぶ必要があります。
代表的なのは法定時間外労働や、休日労働です。協定を結ばないと法違反となってしまいます。
労働者の過半数を超えて構成されている労働組合があれば、そこと労使協定を締結すればいいのです。
また、新規業務や何か問題が発生したときの対応など、使用者として労働者の意見がほしい場合もあります。
そういったときに労働組合があれば、現場がどういう意見なのかを容易に集約することができます。
JR東日本労働組合の大量脱退問題
報道等によるとJR東日本労働組合は2018年1月時点で約4万6000人(社員の8割)の組合員が労働組合に加入していました。
しかし、わずか数ヵ月で約3万人が労働組合から脱退したと言います。
通常ではありえないことです。
今回の大量脱退は組合員の意見を反映しない執行部のストライキ予告により労使関係が悪化したことが原因のようです。
ストライキの予告
毎年、春闘交渉(賃金のベースアップ)が使用者と労働者側で行われていますが、そこで組合執行部が要求を行い、要求が受け入れられない場合はストライキも辞さないとストライキ予告をしたことが問題の発端です。
使用者側はこの組合の要求を拒否し、労使で協力してストライキなんかしないで平和に問題解決をしましょうねと約束していた「労使共同宣言」に反する行為だ、としてこの失効を通告しました。
世論の批判、負の歴史
一般的な世論の理解ではJR東日本の賃金ベースは決して通常企業と比較して低いものではなく、むしろ高給という理解があり、また、毎年の春闘交渉でも4年連続で賃金のベースは上がっていました。
そういったなかでのストライキ予告です。
利用者などの世論からするとあまり印象がよくありません。
また、JRは旧国鉄時代にストライキを強行して、利用者の不満を買った結果、解体され民営化されたという負の歴史があります。
恐らくですがそういった利用者の批判や歴史的背景から組合員の少なくない人数が今回のストライキ予告にNOを突きつけたものと思われます。
潜在的な脱退希望者
JR東日本労働組合に限った話ではなく、どこの企業内労働組合にも「潜在的脱退希望者」というのが存在しています。
高額な組合費、定期的にまわってくるとやりたくもない役員の番、休日や有給休暇を使用しての会議、政治的な動員、したくもない署名などなど。
労働組合の活動に協力的ではない人からしたら苦痛以外の何者でもありません。
そういった潜在的な脱退希望者にとって、今回の出来事は格好の脱退理由になってしまいました。
通常時であれば組合の脱退という行為にはそれ相当の理由付けが必要なところ、今回の問題は脱退に大義名分を与えてしまいました。
その証拠に、ストライキは批判を受けて行われず、執行部も今回の問題の責任を問われ交代、組織は一新しましたが、現在も脱退者は労働組合に戻ってきていないそうです。
企業内労働組合と企業外労働組合
今までの労働組合というと、会社のなかに組織されることが多かったのですが、近年労働組合の組織率が低下していたり、非正規労働者の増加により、そもそも企業内労働組合がなかったり、あったとしてもいわゆる御用組合(会社の意向を優先し労働者の権利を守らない労働組合)しかない場合が増えてきました。
そうなると労働者の権利を守るべきものがなくなり、立場の弱い労働者はますます悪条件でブラック企業に使われることになります。
そういった人たちの受け皿になっているのが近年増えている企業外の労働組合(ユニオン)です。
ユニオンにはパート、アルバイトや派遣、非正規労働者など雇用のされ方の別で組織されたものもありますし、建設業や福祉関係、医師や看護師などの職種ごとに組織されたものもあります。地域ごとに組織されているものもあるようです。
組織ごとで加入の要件や費用などはまちまちですが、ネットで申し込みできるような敷居の低いものも多いようです。
ユニオンに加入した労働者からの相談により、そのユニオンが会社に対して団体交渉を申し入れた場合、会社は無視をすることができません。
企業内労働組合の場合といっしょで労働組合法に定められた「不当労働行為」となってしまうからです。
また、そういったユニオンに相談したことによる使用者から労働者に対する不利益取り扱いもまた、不当労働行為とされ違法行為となります。
労働者の立場からすると、自分の抱えている問題について、迅速に対応し、団体交渉などにより使用者に要求してくれて、労働条件を改善してくれるような組織は大変頼もしい存在ですよね。
まとめ
今回はJR東日本労働組合に起きた、大量脱退問題から、現在の企業内労働組合が潜在的に抱えている問題についてまとめました。
本来、労働組合は労働者が団結し、使用者と対等な立場にたち、労働条件を向上させていくためにあります。
これは過去の歴史に由来した憲法で定められている国民の権利です。
また、使用者側からしてもマイナスばかりではなく、労働者の意見、現場の意見をとりいれることにより、より良い企業、労働環境を築き上げる良いきっかけになります。
特に働き方改革を行い、労働生産性を向上させようとしている現在の日本において、企業には現場労働者の意見などを集約し、モチベーションアップを図り、より良い職場環境を作り上げていくことが求められています。
そのためには労働組合は必要不可欠なものです。
今現在、確実に労働組合として機能している団体がある企業は幸運といえるでしょう。
よりよい職場環境を作り、効率を上げ、労働時間を削りながらより高い成果を上げていくために労使で協力していきましょう。
しかし一方で労働組合の組織率が年々低下していることもまた事実です。
ひとたび歯車が狂い、組合員の信頼を失うとあっという間に組織は崩壊してしまいます。
また、政治的な要請など、本来の目的ではないところに嫌悪感を抱き、協力的ではなくなる組合員などが潜在的に存在するというのも問題です。
時代の移り変わり、意識の変革などにより、若年層の労働者からすると、実効ある労働組合が求められているのではないでしょうか?
労働組合に入っているメリットはなんですか?
そんな問いに対して明確に答えられるような労働組合でなければ、今後、労働者に支持されていくことは難しいのかもしれません。