コラム

パワハラ禁止法案化のための現状把握【過労死との関係性】

のびのび幸福になる労働相談室室長のnobisukeです。

今回は、法案化が検討されているパワーハラスメントについてまとめてみたいと思います。

厚生労働省としてもパワーハラスメントについて問題提起や防止措置について啓発はしていましたがいままで法律で規制することはしませんでした。

いよいよ会社の防止措置の義務化を法律で明文化するかどうかということで議論が深まっています。

また、パワハラは労災の「過労死」の問題とも密接に関係しています。

今回は、パワハラ規制についての現状と、法制化についての問題点、過労死との関連についてまとめて、今後の議論の参考にしたいと思います。

パワハラ定義、問題提起

職場のパワーハラスメントとは

厚生労働省では、職場のいじめ・嫌がらせについて都道府県労働局への相談が増加傾向にあったことを踏まえ、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」を開催し、平成24年3月に「 職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言 」(以下「提言」と言います)が取りまとめられました。提言の中では、定義や類型について、以下のように取りまとめられました。

職場のパワーハラスメントの定義

職場のパワーハラスメントとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義をしました。

この定義においては、

  • 上司から部下に対するものに限られず、職務上の地位や人間関係といった「職場内での優位性」を背景にする行為が該当すること
  • 業務上必要な指示や注意・指導が行われている場合には該当せず、「業務の適正な範囲」を超える行為が該当すること

を明確にしています。

職場のパワーハラスメントの6類型

上記で定義した、職場のパワーハラスメントについて、裁判例や個別労働関係紛争処理事案に基づき、次の6類型を典型例として整理しました。

なお、これらは職場のパワーハラスメントに当たりうる行為のすべてについて、網羅するものではないことに留意する必要があります。

1)身体的な攻撃

暴行・傷害

2)精神的な攻撃

脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言

3)人間関係からの切り離し

隔離・仲間外し・無視

4)過大な要求

業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害

5)過小な要求

業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと

6)個の侵害

私的なことに過度に立ち入ること

データから、パワハラの現状、相談件数

いじめ・嫌がらせに関する相談件数

都道府県労働局等に設置した個別労働紛争解決制度による総合労働相談コーナーに寄せられる「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は年々増加し、平成24年度には相談内容の中でトップとなり、引き続き増加傾向にあります。

労災の(いじめを主する)精神障害補償件数

職場でのひどい嫌がらせ、いじめ、暴行や職場内のトラブルにより、うつ病などの精神障害を発病し、労災補償を受けるケースがあります。また、上下関係対人関係による件数は年々増加しています。

24年度 25年度 26年度 27年度 28年度
精神障害の労災補償の
支援決定件数全体

475件

436件

497件

472件

498件

(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた

55件

55件

69件

60件

74件

上司とのトラブルがあった

35件

17件

21件

21件

24件

同僚とのトラブルがあった

2件

3件

2件

2件

0件

部下とのトラブルがあった

4件

3件

0件

1件

1件

 

パワハラ対策の現状と問題点

セクハラ、マタハラなどは雇用機会均等法により、事業主の防止措置が義務づけられています。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)
第十一条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 省略
3 省略
(職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)
第十一条の二 事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 省略
3 省略

つまり、会社はセクハラやマタハラに対して十分な措置をとらないと行政指導を受けます。

どこかの某大臣の「セクハラ罪なんてない」という発言からもわかるとおり、セクハラ、マタハラの加害者本人に対する刑事罰のようなものはありません。

が、会社に対する防止措置義務がいちおう法令で明文化されているので一定抑止に効果はあるという状況です。

それに対して、パワハラは企業の防止措置義務について現在もなんら法律で明文化されていません。

裁判において、パワハラ加害者本人の不法行為責任(民法709条)、会社の使用者責任(民法715条)、会社の安全配慮義務違反など民事的な責任を追求するしかありません。

せいぜい労働局による、個別労働紛争解決のための助言指導やあっせんに頼るしかなく、これは法令に基づいたものではありませので、なんら法的強制力はありません。無視されたらおしまいです。

過労死とパワハラの深い関係

先ほどのデータでも示されていましたが、近年増加傾向にある労災の精神障害補償件数にもパワハラは大きく関係しています。

最近の報道では全て「過労死」と表現されていてひとくくりにされていますが、過労死を細かく分けると

  • 過重労働(長時間労働を主とする)による脳、心臓の疾患による死亡
  • 精神障害発症による「自殺」による死亡

に分けられます。

脳、心臓の疾患の発症が主に長時間労働が原因とされているのに対し、精神障害発症に大きく関わっているのが「パワハラ」によるメンタルストレスです。

恒常的な長時間労働と相まって、職場のパワハラ、いじめ等により精神障害を発症し自ら命を絶ってしまう人が年々増加していることは決して無視できない問題でしょう。

まとめ

パワハラはセクハラやマタハラと同じように企業に防止措置義務を法律で明文化することにより、民事的な解決方法だけではなく、法令に基づく行政指導などの行政が関与した解決方法が望まれます。

実際に先ほど申し上げた個別労働紛争解決制度への相談件数は年々増加しており、内訳もいじめ、パワハラの問題が最も多くなっています。

また、近年増加傾向にある過労死の問題についても、過重労働防止だけでは実は対策は十分ではなく、パワハラを防止することを国をあげて取り組んでいかなければ、今後も精神を病んでしまい自ら命を絶ってしまう人は増え続けていきます。

これは国策として取り組んでいかなければいけない問題であり、国としても無視することはできないでしょう。

一部、企業側がパワハラの定義が曖昧であるとして法制化に難色を示していますが、それはパワハラに限ったことではなく、セクハラにしても同じことで、単なる言い訳に過ぎないし、そんなことをいっていてはいつまでたっても職場のいじめやひどい嫌がらせを根絶することはできません。

大切なのは精神を病んでしまうようないじめ、嫌がらせを国としても防止していくんだという強い意思を示し明確に法律に盛り込むことです。

どの法律に盛り込まれるのか、未だ明らかではありませんが、是非とも曖昧な表現ではなく厳格な内容での法制化を望みます。