コラム

厚生労働省過労死白書から見る危険な業種と業務、過労死の原因と傾向の分析

毎年、厚生労働省から過労死等に関する統計データを元に、現状の分析や国としての取り組み状況などをまとめた資料が発表されています。

平成29年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況

資料は膨大でいちいち全部に目を通すのは大変なので、ここから読み取れる過労死の危険性が高い業種や業務また、その原因を要約して分析してみたいと思います。

なお、ここでいっている「過労死」とは「脳・心臓疾患」及び「精神疾患」を発症した場合のことです。

ご自身がここにあげられている職種に該当する方はご注意ください。

業種別労災認定件数

まず、業種ごとで労災に認定されている件数の順位が統計データから示されています。

平成29年度 脳・心臓疾患労災認定件数

長距離トラックドライバーや宅急便などの物流関係の業務従事者が該当する「道路貨物運送業」が最も件数が多くなっています。

その次に飲食店が続いています。

平成29年度精神障害労災認定件数

脳・心臓疾患と同様「道路貨物運送業」が件数のトップになっています。

他の業種と比較して長時間労働が蔓延している業態構造が影響しているものと思われます。

次に件数が多いのが「医療業」「社会保険・社会福祉・介護事業」です。

「医療業」「社会保険・社会福祉・介護事業」は脳・心臓疾患の認定件数が比較的少なかったことから考察すると、長時間労働というよりは、精神的なストレスによるメンタル不調が大きな原因となっているのではないかと思われます。

業種別、過労死発生原因と傾向及び対策について

統計データから見た、業種ごとの過労死発生原因と現状について整理しました。

自動車運転従事者

トラック運転手、バス運転手、タクシー運転手、物流関係従事者が分類される運輸業・郵便業の業種についての分析です。

脳・心臓疾患事案

年代で見ると50歳代の発症件数が最多となっています。

会社の規模としては20人から49人までの比較的小規模の会社がもっとも多くなっています。

原因としては恒常的な長時間労働はもちろんのこと、特にトラック運転手については、不規則な勤務、拘束時間が長いことが主な原因とされています。

精神疾患事案

トラック運転手においては「恒常的な長時間労働」が最も大きな原因となっており、次いで、配送ミス等の「仕事上の問題」、上司からの叱責等「上司関連」となっています。

上司からの「パワハラ」も大きな原因となっていることは見逃せません

タクシー運転手やバス運転手は顧客からの暴力など「乗客関連」が飛びぬけて多い原因となっています。

業界全体として顧客重視を原因とする慢性的な長時間労働が蔓延しています。

業界全体の問題として業界団体を巻き込み国を挙げて対策する必要があります。

また、パワハラなども件数も多いことから長時間労働の是正と併せ、職場環境の改善についても取り組んでいかなければならないでしょう。

IT産業

こちらも慢性的な長時間労働がある業態ですがどのような状況でしょうか。

IT情報サービス業種における過労死事案数をみると圧倒的にSEの件数が多いことがわかります。

また、男女別の件数を見るとほぼ男性が占めており、女性は少数です。

脳・心臓疾患事案

SEにポイントを絞って分析すると、過労死の原因となる長時間労働が発生する原因として主なものは「厳しい納期」、次いで「顧客対応」とこちらも顧客主義によるものとなっています。

精神疾患事案

精神疾患の原因の割合を見ても、圧倒的に「仕事の量・質」が多く、納期厳守であったり、顧客トラブル対応による長時間労働が主になっています。

所定外の労働が発生してしまう原因として、労働者にとったアンケート結果によると、最も多い原因が「トラブル等の緊急対応のため」となっており、次いで、「納期関係」となっています。

顧客企業のシステムを構築するという業務の性質から発生してしまう問題です。

今の社会はすべてシステム化されており、ひとたびIT情報システムに障害が発生してしまうと顧客企業の企業活動がすべてストップしてしまうことも珍しくありません。

早急に障害を復旧することができなければ、顧客企業に多大な損失をこうむってしまう事にもなりかねず、緊急対応を余儀なくされています。

とにかく長時間労働を削減することがIT業種では喫緊の課題となっていますが、実際のところ効果的な方策は未だみつかっていません。

外食産業

続いては、飲食店などの外食産業についてです。

職種別に事案数を分析すると、調理人、店長の件数が多くなっています。

年代としては、「脳・心臓疾患」は50歳代が最も多くなっており、「精神疾患」については39歳以下の件数が最も多く、比較的若年層の件数が多くなっています。

脳・心臓疾患事案

飲食店の長時間労働の原因としてはとにかく人手不足があげられます。

小規模の飲食店では、常勤の正社員は調理人と店長のみであり、その他はすべて学生のアルバイトやパート従業員によりまかなっている場合が多く、必然的にすべてのオペレーションの責任や補助、店が終わった後の後始末、開店前の準備など雑多な業務のしわ寄せがあります。

また、業務を代替できる同程度の職責の労働者が不在なので業務を変わってもらうことができずに慢性的な長時間労働を強いられているものと分析できます。

精神疾患事案

精神疾患の事案数で見ると、調理人は上司のパワハラを原因とする「対人関係」が最も多い原因となっています。

どうしても調理場というと古典的職人的な職場環境になりがちであり、料理長等の上司からの厳しい叱責、暴行などが多くなってしまっているようです。

店長でいうと「役割・地位の変化等」が最も多くなっていて、店舗に何か問題が起きたときにどうしても責任者である店長にしわ寄せが行ってしまう課題があります。

また、今まで店長ではなかった人が店長に格上げになり、業務が過重になってしまった結果発症してしまうケースも考えられます。

業界全体として、小規模の店舗が多いことにより役所への各種届出も満足に行われていなかったり、人員が不足した状態で労働者にしわ寄せが言ってしまっているケースが多いことが問題であるものと思われます。

医療・福祉業

医師、看護師、介護職員を代表とする医療・福祉業も過労死件数が大変多い職場です。

医師では長時間労働を原因とする脳・心臓疾患が圧倒的に多く、看護師では精神疾患が多くなっています。

介護職員、医療事務関係職員は脳・心臓疾患、精神疾患ともに多くなっています。

年齢別で見てみると脳・心臓疾患では50歳代が多く、精神疾患では40歳未満の若年層で発症件数が多くなっています。

医師における脳・心臓疾患事案数

最も多い職種は「医師」であり、緊急の患者対応、慢性的な人手不足と併せて学会業務やカルテの記載など患者対応以外においても業務が多くなっており慢性的な長時間労働が原因で脳・心臓疾患を発症する事例が多くなっています。

また、研修医などのいわゆる「自己研鑽」の時間が労働時間になるのかが問題となっていますが、研修医のキャリア形成において自己研鑽時間は必須のものとなっており、どうしても拘束時間が多くなっているのが実態です。

看護師における精神疾患事案数

精神疾患の事案数が多い看護師では、その原因として患者からの暴言や暴行を受けることや、入院患者の自殺、殺人事件などの事件を目撃する等の「事故や災害の体験」が最も多くなっており、その半数が深夜時間帯に発生しています。

介護職員、医療事務職員

介護職員及び医療事務職員等については、脳・心臓疾患、精神疾患ともに事案数が多くなっています。

慢性的な人員不足、代替職員の不在による長時間労働、休日の確保困難などが原因とされている一方で利用者からの暴言、暴力により精神疾患を発症する事案も多くなっています。

 

まとめ

特に過労死が多く発生している業種についてその原因と現況について分析しました。

すべての業種において共通している事項

「脳・心臓疾患」の発生している年代は50代が最も多く、「精神疾患」の発生している年代は40未満の若年層が多い

慢性的な人手不足により業務をかわる人間がいない

顧客(患者、利用者)の都合に合わせざるを得ずに予期しない業務が突発的に発生し、労働時間が長時間になる、休暇が取得できない

日本国特有の傾向ではないかと思うのですが、あまりにも顧客至上主義であり、業務に従事する人間の都合や健康などがおざなりにされてしまっているように思います。

社会全体で仕事のあり方、顧客サービスのあり方を今一度見直す必要があります。

とはいっても企業間競争も激しい昨今ですので、政府が国策として規制を明確に作っていくことで事業者に対して労働者の保護を促す必要があるのではないでしょうか。

 

過労死の原因である「脳・心臓疾患」と「精神疾患」の労災認定基準について簡単にまとめた記事です。

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