のびのび幸福になる労働相談室室長のnobisukeです。
電通の過労死事件を発端に、近年日本では過労死防止対策を重要施策にあげています。
あなたは過労死の定義をご存じですか。
なんとなく、たくさん働きすぎて亡くなってしまった、くらいのイメージなのではないでしょうか?
実は過労死については、労災保険で認定の基準が定められています。
実際にご自身がこんなことになるなんて想像もしたくないと思います。
しかしながら、現在の日本の働き方では不幸にも過重労働やハラスメントなどの精神的な負担により病気を発症してしまう方が多数いらっしゃいます。
労災保険に定められている認定の基準について概要を確認していただき、ご自身の働き方が過重ではないかどうか、病気を発症してしまう様な危険性はないかどうかご確認ください。
また、現在病気を発症してしまった、精神的に様子がおかしい、という方々で仕事での負荷が原因なのではないかと思われる方もご確認いただき、ご自身に当てはまる部分があれば、会社の住所を管轄している労働基準監督署へご相談いただくことをお勧めします。
目次
生存していても基準は同じ
過労死、過労死と言葉はよく聞きますが、亡くなられたのか、生存されているのかは実は認定の基準には関係ありません。
つまり、厳密には労災保険上の認定基準で、「過労死」の認定基準というものは定められていません。
「過重労働を原因とする疾病(病気)なのか、そうではないのか」を判断する基準はありますが、亡くなられたのか、生存されているのかは結果論にすぎません。
現在、労災保険制度上で過重労働を原因とする疾病の認定は大きく分けて「脳・心臓疾患」及び「精神疾患」の2種類です。
例を挙げると、電通事件の場合は、
- 過重労働(+パワハラ)
↓ - 精神疾患発症
↓ - 精神疾患により自殺
という流れです。
それ以外にも
- 長時間労働
↓ - 脳梗塞発症
↓ - 一命はとりとめたが障害が残った
という事例もありえるということです。
以下、細かく見ていきましょう。
脳・心臓疾患
対象の病気
脳疾患とは「脳梗塞」「くも膜下出血」「脳出血」等の疾患です。
心臓疾患とは「心筋梗塞」「心停止」「狭心症」等の疾患です。
認定の要件1
発症の直前から前日の間で対象の疾患を発症させてしまうような「異常な出来事」があったかどうか。
異常な出来事とは、業務に関連した重大な人身事故、重大事故の当事者になるなどして、極度の恐怖、緊張などの精神的負荷や異常な環境にさらされるなどの身体的負荷が伴う出来事に遭遇した場合です。
脳疾患や心臓疾患を発症してしまうくらいの異常な出来事ですので、通常生活をしていてまず遭遇することがないような大変な出来事ということになります。
認定の要件2
短期間の過重労働があったかどうか。
発症の前の1週間の間に長時間労働や不規則な勤務があったかどうかですが、具体的な基準はないため明確な線引きはありません。
考えられる負荷要因としては、
- 労働時間
- 不規則な勤務
- 拘束時間の長い勤務
- 出張の多い業務
- 交代性勤務・深夜勤務
- 作業環境
- 精神的緊張を伴う業務
などが考えられますが、1週間の短期間で脳疾患・心臓疾患が発症するようなかなり負荷の多い業務ということですので、こちらも該当する場合はまれかもしれません。
認定の要件3
発症の前の6ヶ月間に恒常的な長時間労働があったかどうか。
これが一番具体的でわかりやすい基準ですが、発症の前の1ヶ月間に100時間を超える残業があった、もしくは、2ヶ月から6ヶ月間の平均残業時間が80時間を超えた場合です。
上記3つの要件のいずれかに該当した場合、業務上の疾病として労災が認められます。
要件1や要件2については、その過重性の判断が難しいところですが、要件3については明らかに数字として結果が出ますので、該当の病気を発症してしまった方で要件に当てはまりそうな方については労働基準監督署へ相談してください。
精神疾患
精神疾患とは「うつ病」「適応障害」「急性ストレス反応」等が対象とされています。
「統合失調症」は業務による負荷により発症する可能性は低いとして、対象の疾病からは除外されています。
過重な労働時間や過重な職場環境による極度のストレス(いじめ、パワハラ、セクハラ含む)により精神疾患を発症させてしまった人が対象です。
認定基準上に例示されている出来事は、そのストレス強度によって「強」「中」「弱」と分類されています。
認定の要件1
発症前6ヶ月間に業務上の事故などで生死に関わる、永久労働不能となる負傷をした、業務に関連して他人を死亡させた、強姦された、1ヶ月間に160時間を越える残業をさせられた等の特別な出来事があった場合。
この要件は精神障害の認定基準上「特別な出来事」と定められていて、これに該当する場合は労災に認定されます。
認定の要件2
具体的な線引きはありませんが発症前6ヶ月間に仕事に関連して精神的負荷が「強」と認められる出来事があった場合。
重度の後遺症を残すような負傷をした、退職を強要された、ひどいいじめ、パワハラ、セクハラを受けたような場合が該当します。
具体的に列挙されている出来事のなかで、精神的負荷が「強」と認められる例としては以下のとおりです。
- 長期間(おおむね2ヶ月以上)の入院を要する、又は労災の障害年金に該当するような、原職への復帰ができなくなる後遺障害を残すような業務上の病気やけがをした
- 会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミス(倒産、それに準ずるような業績悪化)をいして、事後対応に当たった
- 退職の意思のないことを表明しているにも関わらず、執拗に退職を求められた
- 部下に対する上司の言動が業務指導の範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた
- 同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた
- 治療を要するような暴行を受けた
長時間労働があった場合
要件1に該当するような長時間労働があった場合はもちろんのこと、そこまでに至らない場合でも以下のような場合労災と認められる場合があります。
- 発症直前の2ヶ月間連続して1ヶ月あたりおおむね120時間以上の時間外労働を行った場合
- 発症直前の3ヶ月間連続して1ヶ月あたりおおむね100時間以上の時間外労働を行った場合
- 要件2にあげたような精神的負荷が「強」となるような出来事はないものの、「中」「弱」程度の出来事があり、恒常的な長時間労働(1ヶ月あたり100時間以上の時間外労働)が認められる場合
上記の要件のいずれかに該当した場合、業務上の疾病として労災が認められます。
まとめ
以上が脳心臓疾患、精神疾患になった場合の労災保険で業務上の疾病として認められる要件です。
過重労働(過労)が原因で、上記のような業務上の疾病になってしまった結果、不幸にも亡くなってしまったような場合を「過労死」といっています。
今現在これらのような疾病を発症していない方々は、ご自身の働き方を見直していただいて、これら要件に該当するような場合については注意が必要です。
万が一にもこのような病気にならないように、あまりにも過重な労働をさせるような会社はブラック企業といわれてもおかしくありませんから、病気になってしまう前に別の仕事も検討されてもいいかもしれません。
不幸にも既に疾病を発症してしまったような方々は、要件をご確認いただき仕事が原因ではないかと疑われる場合は労働基準監督署にご相談ください。